第116回 唐突に開始されたダイビング規制 タイ南部アンダマン海に浮かぶシミラン島(P.42-43で紹介)は陸地から直線距離で60キロ以上も離れていることもあり、かつては秘島のひとつになっていた。海洋国立公園内にあるため開発の手を入れられず、大人数を収容できるホテルもない。海が荒れる雨期の間は船も出せず、そのためこの島を訪れる旅行者は非常に限定的だった。 しかし近年、快適な高速ボートを持つ旅行会社が島へのルートを開拓し、続々と観光客を送り出し始めた。乱開発で自然が破壊されてしまったプーケットやサムイ島に飽きた客がこぞってこの島を目指し始めたのである。 その後は想像のとおりで、観光客が増えた結果、同じように自然が破壊されてしまった。とくに被害が大きかったのは珊瑚礁で、スキューバダイビングのポイントを中心に珊瑚礁の白化、つまり死滅化が加速度的に進んでしまったのである。 危惧したタイ政府は今年の1月、この島を含むタイ国内の海洋公園内の海に突然の立ち入り禁止規制を発表した。珊瑚礁の破壊は以前から言われていたが、発表はいきなりだったので観光客も業者も大あわて。タイ人ですら驚くほど、それは突然の命令だった。 実際のところ、規制後もこの島周辺でダイビングはできる。旅行会社は珊瑚の死滅化が進むポイントを避け、別の場所に観光客を案内することで対応している。規制前のポイントがどこか知らないが、たぶん浅瀬ではないだろうか。延ばせば手も足も珊瑚に触れられる海はタイにはたくさんあるのだ──いまのところは。スキューバダイビングごときで珊瑚礁は破壊されないとの声もあるが、観光客が、いや人間がそこに立ち入ると、自然はかならず劣化するのである。 いまやタイは観光大国。観光客相手のビジネスで生計を立てている人の数は非常に多い。観光客は呼びこまなければならないが、呼びこむと自然は破壊され、肝心の魅力が失われてしまう。今回のタイ政府の対応は唐突すぎて困惑したが、これはその場主義者の多いタイ人らしからぬ未来を見据えた行動だったかもしれない。
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