第109回 理想だけでは強くなれない 先日終了したワールドカップ南アフリカ大会で、サッカー日本代表は見事に予選を突破して世界の16強に入った。その戦い方は非常に守備的で、特に決勝トーナメントのパラグアイ戦は両国の国民以外にはまったくつまらない地味な試合になっていた。 それまでの日本代表は細かいパス回しによって試合を組み立てるサッカーが特色だった。ただしボールは回るが得点には結びつかず、結果として勝てない。彼らはたぶん王国ブラジルを理想としていたのだろう。巧みにボールを回して活路を開く彼らの華麗なスタイルこそが日本の目指すべき姿と思っていたに違いない。 それが南アフリカの本大会で、いきなり変わった。引いて守って守って守り倒して最小得点差で勝利する、まるでイタリアのようなサッカースタイルで予選を突破したのである。最後は攻められれば攻められるほど安心できたほどで、守って勝つのはまさに日本のために作られた戦術のようだった。ブラジルのような華麗さはなくても、イタリアのように地味に戦えば勝利できる──目から鱗が落ちるとはこのことだ。 前置きが長くなってしまったが、ここからがタイ代表サッカーチームの話である。彼らは少し前までアジアの強豪だった。いまは周辺諸国の後塵を浴びているが、かつては日本代表でさえ警戒していたチームである。恐るべしは個人技で、前線の選手たちは一瞬で相手のディフェンスラインを突破し得点する力を持っていた。もしも彼らに組織力があれば、いまごろはワールドカップ出場を狙えるチームになっていただろう。 ところが彼らはなにを思ったか、自分たちはイングランドのプレミアリーグに属するチームだと勘違いしてしまった。激しく当たり、ひたすら攻め続けて得点するプレミアの試合は見ていて楽しいが、並みの技術と体力では再現は不可能だ。なのに彼らは、そんなチームを目指してしまった。 高い理想は必要だが、正直に足元を見る必要もある。現実に向き直った日本代表チームが突然強くなったように、タイ代表も再び強くなれるはずだ。彼らがタイ・プレミアリーグとイングランド・プレミアリーグが違うという事実に気づいたらの話だが……。
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